ドラゴンチーズ・グラタン

2013年12月30日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (おまけ)】

こんにちは。このラノ編集部のSです。

ひさびさの【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】です。

第3回
『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)・応募作だった『ドラゴンチーズ・グラタン』第1巻第2巻を、“編集長の隠し玉”として選んだ経緯から、 改稿作業全般について紹介してきましたが
今回は、おまけ回の【新人賞応募・Q&A】です。

第5回『このライトノベルがすごい!』大賞締切直前でもあるので(2015年1月15日(水)当日消印有効!です)、
応募者の方々にも、なにかしらの参考になればと思います。


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2013年09月21日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (7)】

こんちには。
このラノ文庫のSです。
(私事で更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
 激しい風邪でダウンしておりました。皆様も体調にお気をつけを)

 さて【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】第7回かつ最終回です。

 これまで、第3回『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)・応募作だった『ドラゴンチーズ・グラタン』第1巻第2巻を、“編集長の隠し玉”選んだ経緯から、改稿作業全般について紹介してきましたが、最終回にあたる今回は「このライトノベルがすごい!」文庫・編集長に登場いただきました。
 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

どうも、編集長のUです。

長きにわたって、担当Sから、【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】と題して、この作品がいかにして出版するにいたったかについて説明させていただいたわけなんですが、そもそも新人賞があるにも関わらず、なぜ「隠し玉」というものが必要だったのでしょうか?
 
もちろん、弊社の同じ新人賞シリーズである『このミステリーがすごい!』大賞において、同じように“隠し玉”といった形でいくつも出版されており、しかもそれがビジネス的にも成功しているということは要因として挙げられます。ただ、そういった外的要因だけではなく、各編集者の、この作品は光るものがある。だけど、同時に欠点も明確なので、大賞シリーズとしては選びにくく、かつ時間制約のあるなかでは修正も効きづらい。でも、縁があってウチに応募されてきた作品なんだから、できるだけ見込みのある作品は世に出したい、という内的な盛り上がりが大きくなってきたこともひとつ大きな要因になっています。
 
今回出ている『ドラゴンチーズ・グラタン』という作品に関しては、まさに担当Sが言っているように長所と短所がはっきりしている作品でした。ただ、2年連続で応募してきていただいたのですが、その際にキャラの配置などにはっきりと成長が見えたこと、ただバランスの悪さは依然として感じられたこと。などから、編集の手が入った方がもっといいものになる、と考えお声がけをさせていただきました。
 そういう意味では、この“隠し玉”というのは、応募作にも関わらず編集と作家さんが二人三脚で仕上げた共同作業に近い部分があるかもしれません。また同時に「光る才能」とそれを一般化して多くの読者に伝えたい編集とのぶつかりあいの中から生まれる、「そこでしか生まれない鮮度」が感じられる他にはない作品群だと思います。

よろしければ、読者の方も手にとっていただいてその「熱さ」と「面白さ」を味わってもらえれば、と思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

第4回『このライトノベルがすごい!』大賞の受賞4作品は、10月10日に刊行予定です。
(今年も“編集長の隠し玉”が登場するかも)

そして、第5回『この』大賞の応募も受付中!
力いっぱい気合の入った原稿、今年も楽しみに待たせていただきますね!


【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】は今回でひとまず修了ですが、「おまけの回」として、【新人賞応募・Q&A】をお送りする予定です。英先生が応募者だった時に抱いていた疑問に答える形ですので、実用性は高い!かもしれません。
  お楽しみに。


《おまけの回へつづく》 


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著者:英 アタル
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著者:英 アタル
出版:宝島社
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2013年09月08日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (6)】

こんちには。
このラノ文庫のSです。

 一日(二日?)遅れですが、【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】第6回です。
 
 第3回『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)・応募作だった『ドラゴンチーズ・グラタン』第1巻第2巻を、“編集長の隠し玉”として刊行するにあたり、大規模な改稿を行ったこと、そしてその具体的な内容について、これまで説明させていただきました。
 第6回では、より基本的で細かい部分かつ重要な点について話していきたいと思います。

 細かくて、重要な部分。
 それはキャラクターの立て方や世界観の設定などではなく、誤字脱字、表現の誤用といった基礎的な文章力の部分です。
 
 ちょっと『ドラゴンチーズ・グラタン』(以下『ドラチー』)から話はそれてしまいますが……応募作品の審査では、作品そのものの面白さと同時に、応募者の基礎文章力もチェックしています。誤字脱字があまりに多かったり、語彙・表現力が不足していたりする応募作品は時期尚早・実力不足として、マイナスポイントがカウントされます。
(「話が面白ければ、それでいいじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それも正解。ただデビューしてから苦労するのは、あなたです。大量のダメ出し、赤字を処理していくのはダメージがくる作業ですよ)

 誤字は、間違った文字。脱字は、文字の抜け。
 これらは大きくわけて、入力ミスによっておこるものと、誤って覚えている場合の2種類がありますが、入力ミスによるものであれば、それほど深刻ではありません。
 書き上げた原稿を、落ち着いてチェックすれば意外と簡単に見つかります。
 脱字している部分を修正すれば、問題解消です。
 (あまりに多い場合は、また別の問題ですが)

 問題は誤って覚えていた場合。
 この場合は、「間違っていることがわからない」ため、自分では修正できないのが最大の問題。これは基礎力を上げてください、としか言いようがない部分ではありますが、間違いに気づくため/修正するためにできることはいくつかあります。
 第三者に原稿をチェックしてもらう、もしくはソフトの「校正・校閲」機能を活用してみる、「あれ?」と思ったら辞書を引くこと、などです。

 上記のチェックで見つけ出しにくい部分としては、発音は同じだが、意味が異なり区別される同音語・同音異字・同音異義語(「いがい」:以外・意外/「きく」:聞く・訊く・聴く)。異なる漢字だが同じ発音(訓)が可能な同訓異字(「かげ」:陰・影・蔭/「あと」:後・痕・跡・蹟……)などがあります。

 漢字は表意文字(文字の形が意味を持つ/意味を表す、文字のこと。英語などの表音文字は基本的に、字形に意味を持たない)ですので、どの漢字を使用するかによって、意味が違ってきます。ほぼ同じ意味を持つ漢字を使っているのであれば応募時はスルーされることも多いですが、厳密に、意図的に、漢字が取捨選択されていることが原稿からわかる場合、それはプラスポイントとなります。
 
 ちなみに漢字だけでなく、作品の世界観とキャラクター、シーンにあった適切な語句の選択ができているか、それが中高校生に理解できる表現であるか、などもチェックされます。適切な語句でわかりやすく表現されていれば、同じ文字数でもシーンの情報量は高くなり、表現の引き出しが多ければ、同じようなシーンでも新鮮に描けますし、作品全体の雰囲気・方向性を描き出すことも可能です。
 例えば、地の文に難読漢字や熟語を多用するラブコメは、テンポや軽み、取っつきづらさの面で正直、厳しい(そこに意図と目的があり、成功しているのであればOKですが)。逆に時代物で現代用語が頻発すると、取っつきやすくはなりますが、時代設定のチョイスや作者の意識に疑問が生じ、結果的に物語に入り込みづらくなるパターンもあります。
 
 さて『ドラチー』です。
 これまで改稿作業の様子を、物語の構成面を中心に説明していましが、上記のような一文単位の文章力についてはどうだったのか?
 基礎的な力量に関しては問題なし。
 誤字脱字、誤用もなく、表記統一もほぼ完璧でした。
 ※「表記統一」「表記のゆれ」とは、「一つ・ひとつ・1つ」など、
  この作品ではどの表記を使うかバラけさせないこと。
  これは自分の記憶に頼るのではなく、
  メモや「表記の統一表」を作ることをオススメします。
  特にキャラによって表記の書き分けを行う場合は、
  あったほうが楽です。
  (統一できていないと、それはあくまで
  書き分けている「つもり」でしかありません)

 ただ設定・構成面で課題とされていた「過剰さ」は、文章面でも同様。一文単位で文章が練り込まれすぎてクドくなり、格好いいがわかりづらい。固有名詞の頻発を避けるため、代名詞を使いすぎて、またわかりづらい……そのため、構成面の修正と同時に、文章単位の修正も行われていきました。
 具体的には、『ドラチー』の日常パート(食事と医療の部分)ではできるだけ修飾を抑え、日常的な言葉・言い回しに変え、バトルシーンではわかりやすさとスピード感を重視した表現を残す、という方向性での修正です。

 過剰、過剰と何度も書いていますが、過剰さ=NGというわけではありません。問題はそのシーンの状況、キャラの心情が、読者に伝わらないこと。小説が第三者に向けたエンターテイメントである以上、伝わらない=NGなのです。
 
 



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出版:宝島社
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2013年08月31日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (5)】

こんちには。
このラノ文庫のSです。

 【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】第5回です。前回に続き改稿作業についてお話したいと思います。

 『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)・応募作だった『ドラゴンチーズ・グラタン』第1巻第2巻を、“編集長の隠し玉”として発売するにあたって、クリアしなければいけない大きな課題は以下の3つ。

------------------------------------------------------------------------------
 ●1●「独特で過剰な設定」を、初見の読者にもすんなりと
    理解できるよう、わかりやすく情報提示」すること

 ●2●作品の半分近くを占める戦闘シーンをタイトにし、
    全体の「バランス」を取りつつ、メリハリをつける

 ●3●物語のテーマ「食療学」=「料理で病気を治療する学問」を、   きちんと物語にリンクさせること
------------------------------------------------------------------------------

 その内の「1」については、前回お送りした通り、物語の構成を変更し、情報提示を小出しに、かつ物語と有機的に絡ませることで解消しましたが、次にクリアすべき「2」。戦闘シーンの処理がなかなかの難問でした。
 なぜなら、英先生が小説を、ライトノベルを書き始めたきっかけ、モチベーションが「かっこいい戦闘シーンを書きたい!」というものだったからです。

 商業出版物といっても、小説は作家さんの作品です。
 しかし、要望をそのまま受け入れることがベストであるとは限りません。

 応募原稿のうち、戦闘シーンが占める割合は全体の半分~3分の1強。渾身を込めた力作であることは、原稿からも伝わってきました。

 が、この長大な戦闘シーンが中盤からラストにかけて挟まっているため、本作のメインテーマ【食事で医療を行う】が置き去りにされ、主人公レミオが何のために戦っているかが曖昧になってしまっていたのです。
 「いくら渾身のパートであっても、作品のバランスを崩し、面白さを失速させているのであれば、必要なし」。厳しいようですが、そう判断し、戦闘シーンを現状の半分にすることを英先生に提案しました。同時に、キャラがブレてたアトラの性格設定の調整、「ドラゴンチーズ・グラタン」という料理をより有機的に作品と関連させる見せ方など、大きな修正から細部に至るまで数限りない相談と調整が続きました。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ドラゴンチーズ・グラタンを読んでいただいた方々から、
『料理のシーンが美味しそうに書けている』『キャラ同士のやり取りが良い』というお言葉をいただきます。
大変うれしいのですが、複雑な気持ちがそこに同居しています。

多くの方に勘違いされているような気がしているんですが、
戦闘シーンこそ私が書きたい部分、注力していきたい部分です。
……あんまり上手くはないんですけれど。

逆に料理のシーンや、感情表現にはあまりこだわっていません。
もちろん面白くなるよう、全力は尽くしています。
ですが、戦闘シーンほど悩んでいないのも事実でして。

力を入れた部分と、評価される部分の反転現象にいつも眉根を寄せております。

さて、ドラゴンチーズ・グラタンの初期原稿ですが
実質、半分近くを戦闘シーンが埋めていました。
これを削り落とす、という作業はなかなかに大変でした。
初期原稿にたっぷり書き込まれた修正指示の赤文字を見たときは、目まいがしました。
修正指示の中には戦闘シーンへ深く組み込まれている設定の削除なども含まれており、
かなり困惑したことが記憶に残っております。

ともかく手をつけなければ、どうにもなりません。
膨大な修正指示に向き合った私は、なんというか……こう、貧弱な装備で魔王討伐に送り出される
RPGの主人公の心持ちが少しだけわかったような気がしました。

そうやって、削っては作り直し、を繰り返して完成した原稿。
初期原稿とのもっとも大きな差は『読みやすさ』でした。

初期原稿には、自分のやりたいこと、面白いと思ったこと『だけ』が存分に詰め込まれていました。

自分のやりたいことを書き込むのは、決して悪いことではありません。
しかしその結果、読み手への配慮を欠いた不親切な文章になっていました。
たとえるなら非常に脂っこい肉料理だけになっていました、ご飯もサラダもありません。

読み手がちゃんと状況を把握できる文章か?
読み手がすんなりイメージができる書き方か?
読み手がストレスを感じない言葉を選んでいるか?

初期原稿の戦闘シーンには、こういった部分が欠けていました、決定的に。
やりたいことを文面に叩き込もうとするあまり、
『誰が読んでも理解できること』という文章の大前提が欠落していたんですね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 修正され、私の元に届いたのは、見事に戦闘シーンが切り詰められた、そして戦闘の合間に、街での日常がカットバックのように挿入されている原稿でした。
 このシーン挿入は英先生のアイデアで、これが入ることによって、作品のテーマとレミオの目的がブレることなくストーリーラインに絡み、クライマックスを盛り上げる効果も発揮していました。
 それを読んだ瞬間、こちらの意図が明確に伝わり昇華された喜びと、これは面白い原稿になる!と嬉しい手応えを感じました。この瞬間がある意味、編集の醍醐味でもあります。

 そして修正作業は佳境を迎えます。




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2013年08月24日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (4)】

こんちには。
このラノ文庫のSです。

 【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】第4回です。
 第4回では、実際の改稿作業についてお話したいと思います。

 最初に、本を作る時の作家さんサイドの作業をざっくり説明すると、以下の形で進行します。
(各行程にはすべてチェック&修正等が入ります。
 それに伴い、行程数も変動します。
 あとイラストチェックなどもありますよ)

①原案(大まかなアイデアと方向性)
②設定・プロット(キャラや世界観、あらすじ)
③原稿執筆
④原稿修正
⑤校正紙での原稿チェック

 『ドラゴンチーズ・グラタン』(以下、『ドラチー』)は、 『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)への応募作ですので、上記①~③までは終わっています。

 人によると思いますが個人的には、仕上がっている原稿の改稿作業はなかなか大変だと思っています。

 なぜなら、新企画の立ち上げは、ある意味①~③の繰り返し。
 これを何度も行っていく間に、作家さんと担当編集の間で、作品への理解が深まり、共通認識が生じていき、それに基づいてプロットが練られ、修正が行われ、原稿となっていくのです。

 ですが、応募原稿は一旦完成した原稿。
 担当としては、原稿に書かれていない設定がなにかありそうだな、と推測することはできても、なにかの中身はわからない。なぜ書かなかったか、それを知る由もない。
 ですので、応募作品の改稿は、まず設定面や書かれていないことの確認から始まります。(あくまで、私の場合はです)

 特に『ドラチー』は、英先生のオリジナル設定にあふれた作品で(あふれ出していた、と言ってもいいかも)、その情報提示に難があったため、設定の確認は必須。
 確認した上で、それらの情報をどのように提示するかが問題でした。


 例えば、『ドラチー』の重要なキーワード<ヴェルキア器官>。応募作『ドラゴンチーズ グラタン~ヴィーディル食堂のレシピ~』では、以下のように描かれています。
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日はヴェルキア器官のトレーニングにしよう」
 レミオはすでにまくってあるコックコートの右袖を、上腕へと引き上げる。少年の右腕は肘から手の平へかけて厳重に包帯が巻かれていた。レミオは右前腕に左手を乗せて目を閉じて深く息を吐き出す。
 ヴェルキア器官とは生き物がしばしば持って生まれる臓器の一つ。大抵の場合は腕の、特に内側へ分布しており、活動状態になると黒いアザとして浮き上がる。
「ふぅぅっ……まずはプリオを集める」
 レミオの眼前に変化が生じる。
 ヴェルキア器官に引き寄せられた微量の赤い粒子が、わずかに空間を着色した。
 プリオティーモ、通称プリオと呼ばれる大気成分の一種だ。
 植物によって生成される栄養素エッセルターノが、生体内でエネルギーとして消費されるとこのプリオという気体が発生する。プリオは集合することで赤色を呈し、指向性のある力を発生させる。また高濃度になると可燃性を示すことが知られており、竜は体内に貯蔵したプリオを、大気と混合し炎として吐き出す。
 その構造を真似て工業に転用したのが、プリオガスやコンロ、オーブンだ。理論上の話では、人間のヴェルキア器官でも可燃性を呈するほど濃いプリオ集合体を作れるらしい。
「風環形成……そして維持」
 レミオは眼前にできた小さな赤い環に右手を添える。すると弱いながらも内側へ引き込もうとする力が働いているとわかる。
 このように力を持ったプリオ集合体を『風環』と呼ぶ。
 太古の人々はこの赤い粒子が風の根源だと考えていた。そしてヴェルキア器官に集められたプリオの多くが、環状を呈するため『風源の環』すなわち風環という呼び名がついた。
 だがヴェルキア器官が作り出す風環には環状以外にも円や線、板状や球状などもあるため『風環』という呼称が正しくないのでは、と医学会では叫ばれている。
「よし……上手くいった。これを維持しながら……」
 レミオは眼前に手をかざしたまま横へと歩き、風環から距離を取る。器官から遠くなればなるほど、風環の作成は難しくなり、またその力も落ちる。大抵、腕一本分先に強力な風環が作成できれば上出来ではあるが……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ヴェルキア器官がなんであるか、プリオとはなにか、丁寧に説明されていますね。
 その姿勢はOK。
 ただ詳細な説明ゆえに、このシーンの焦点(レミオの行動目的と、ヴェルキア器官の効果)がボケてしまっています。

 作品の冒頭に近い部分であること、重要なキーワードであることから、このシーンのわかりにくさは致命的。英先生との協議の結果、ヴェルキア器官の解説は「どのようなもの」で「なにができて」、この世界で「一般的なエネルギー」で「どのように利用され」「どれほどのパワーがあるのか」を、様々なシーンに絡ませつつ、順番に説明することになりました。
 
 その結果、『ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王』では、先ほどのシーンは以下のように描かれています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日はヴェルキア器官のトレーニングにしよう」
 コックコートの右袖を引き上げる。長手袋の上に左手を乗せて、目を閉じて深呼吸する。
 『ヴェルキア器官』とは、生き物が時折、持って生まれる臓器の一つだ。人間の場合は腕の、特に内側へ分布しており、活動状態になると外皮に黒いアザとして浮き上がる。
「まず……プリオを集める」
 レミオの眼前に変化が生じる。
 ヴェルキア器官に引き寄せられた微量の粒子が、わずかに空間を赤く着色した。
 この赤い粒子はプリオティーモ、通称プリオと呼ばれる大気成分の一種だ。
「風環形成……そして維持」
 レミオの顔の高さに集合した赤い粒子が、小さな輪『風環』を形作った。
 古の人々は、プリオが風の根源だと考えていた。ヴェルキア器官に集められたプリオは、環状になることが多いため『風源の環』すなわち風環という呼び名がついた。
 プリオは高濃度になると可燃性を持つ。この特性を利用したのがプリオガスだ。
「よし……上手くいった」
 レミオは眼前の小さな風環に右手を近づける。すると弱いながらも内側へ引き込もうとする力を――『風動力(ヴェルツ)』を感じる。
「風環をこのまま維持しながら……」
 レミオは風環へ近づけていた右手を、前へかざしたまま忍び足で下がり始める。風環はヴェルキア器官から遠くなるほど、維持が難しくなり、風動力も弱くなる。
 大抵、腕二本分先に強力な風環が作成できれば上出来ではあるが……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 なんとなく、改稿の感じが伝わるでしょうか?
 改稿は、このように進んでいきます。

 ちなみに、ヴェルキア器官を説明するため、追加されたキャラクターもいます。それは、この世界で最高速度を誇るトラフィックの要・ヴェルキア器官車(要は人力車)の、ロイスタ駅駅長。
 口ひげを蓄え、強力な『浮遊』の風環を使いこなす彼の投入でヴェルキア器官の凄さがよりわかりやすく伝えられるようになったと思います。そして、主人公レミオと患者・クレアの出逢いの矛盾も同時に解消し、より印象的なシーンへと生まれ変わりました。
 そしてこの駅長、途中参加にも関わらず、今ではこの物語に欠かせない人物となりました(そして、人気キャラでもありますw)。


 さて、この作品の大きな課題は、3つ。
 ●1●「独特で過剰な設定」を、初見の読者にもすんなりと理解できるよう、わかりやすく情報提示」すること
 ●2●作品の半分近くを占める戦闘シーンをタイトにし、全体の「バランス」を取りつつ、メリハリをつける
 ●3●物語のテーマ「食療学」=「料理で病気を治療する学問」を、きちんと物語にリンクさせること

 次にクリアすべき「2」と「3」については、第5回で。

 《第5回へつづく》 


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