2013年08月24日

【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで (4)】

こんちには。
このラノ文庫のSです。

 【“編集長の隠し玉”『ドラゴンチーズ・グラタン』ができるまで】第4回です。
 第4回では、実際の改稿作業についてお話したいと思います。

 最初に、本を作る時の作家さんサイドの作業をざっくり説明すると、以下の形で進行します。
(各行程にはすべてチェック&修正等が入ります。
 それに伴い、行程数も変動します。
 あとイラストチェックなどもありますよ)

①原案(大まかなアイデアと方向性)
②設定・プロット(キャラや世界観、あらすじ)
③原稿執筆
④原稿修正
⑤校正紙での原稿チェック

 『ドラゴンチーズ・グラタン』(以下、『ドラチー』)は、 『このライトノベルがすごい!』大賞(以下、「このラノ大賞」)への応募作ですので、上記①~③までは終わっています。

 人によると思いますが個人的には、仕上がっている原稿の改稿作業はなかなか大変だと思っています。

 なぜなら、新企画の立ち上げは、ある意味①~③の繰り返し。
 これを何度も行っていく間に、作家さんと担当編集の間で、作品への理解が深まり、共通認識が生じていき、それに基づいてプロットが練られ、修正が行われ、原稿となっていくのです。

 ですが、応募原稿は一旦完成した原稿。
 担当としては、原稿に書かれていない設定がなにかありそうだな、と推測することはできても、なにかの中身はわからない。なぜ書かなかったか、それを知る由もない。
 ですので、応募作品の改稿は、まず設定面や書かれていないことの確認から始まります。(あくまで、私の場合はです)

 特に『ドラチー』は、英先生のオリジナル設定にあふれた作品で(あふれ出していた、と言ってもいいかも)、その情報提示に難があったため、設定の確認は必須。
 確認した上で、それらの情報をどのように提示するかが問題でした。


 例えば、『ドラチー』の重要なキーワード<ヴェルキア器官>。応募作『ドラゴンチーズ グラタン~ヴィーディル食堂のレシピ~』では、以下のように描かれています。
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日はヴェルキア器官のトレーニングにしよう」
 レミオはすでにまくってあるコックコートの右袖を、上腕へと引き上げる。少年の右腕は肘から手の平へかけて厳重に包帯が巻かれていた。レミオは右前腕に左手を乗せて目を閉じて深く息を吐き出す。
 ヴェルキア器官とは生き物がしばしば持って生まれる臓器の一つ。大抵の場合は腕の、特に内側へ分布しており、活動状態になると黒いアザとして浮き上がる。
「ふぅぅっ……まずはプリオを集める」
 レミオの眼前に変化が生じる。
 ヴェルキア器官に引き寄せられた微量の赤い粒子が、わずかに空間を着色した。
 プリオティーモ、通称プリオと呼ばれる大気成分の一種だ。
 植物によって生成される栄養素エッセルターノが、生体内でエネルギーとして消費されるとこのプリオという気体が発生する。プリオは集合することで赤色を呈し、指向性のある力を発生させる。また高濃度になると可燃性を示すことが知られており、竜は体内に貯蔵したプリオを、大気と混合し炎として吐き出す。
 その構造を真似て工業に転用したのが、プリオガスやコンロ、オーブンだ。理論上の話では、人間のヴェルキア器官でも可燃性を呈するほど濃いプリオ集合体を作れるらしい。
「風環形成……そして維持」
 レミオは眼前にできた小さな赤い環に右手を添える。すると弱いながらも内側へ引き込もうとする力が働いているとわかる。
 このように力を持ったプリオ集合体を『風環』と呼ぶ。
 太古の人々はこの赤い粒子が風の根源だと考えていた。そしてヴェルキア器官に集められたプリオの多くが、環状を呈するため『風源の環』すなわち風環という呼び名がついた。
 だがヴェルキア器官が作り出す風環には環状以外にも円や線、板状や球状などもあるため『風環』という呼称が正しくないのでは、と医学会では叫ばれている。
「よし……上手くいった。これを維持しながら……」
 レミオは眼前に手をかざしたまま横へと歩き、風環から距離を取る。器官から遠くなればなるほど、風環の作成は難しくなり、またその力も落ちる。大抵、腕一本分先に強力な風環が作成できれば上出来ではあるが……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ヴェルキア器官がなんであるか、プリオとはなにか、丁寧に説明されていますね。
 その姿勢はOK。
 ただ詳細な説明ゆえに、このシーンの焦点(レミオの行動目的と、ヴェルキア器官の効果)がボケてしまっています。

 作品の冒頭に近い部分であること、重要なキーワードであることから、このシーンのわかりにくさは致命的。英先生との協議の結果、ヴェルキア器官の解説は「どのようなもの」で「なにができて」、この世界で「一般的なエネルギー」で「どのように利用され」「どれほどのパワーがあるのか」を、様々なシーンに絡ませつつ、順番に説明することになりました。
 
 その結果、『ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王』では、先ほどのシーンは以下のように描かれています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日はヴェルキア器官のトレーニングにしよう」
 コックコートの右袖を引き上げる。長手袋の上に左手を乗せて、目を閉じて深呼吸する。
 『ヴェルキア器官』とは、生き物が時折、持って生まれる臓器の一つだ。人間の場合は腕の、特に内側へ分布しており、活動状態になると外皮に黒いアザとして浮き上がる。
「まず……プリオを集める」
 レミオの眼前に変化が生じる。
 ヴェルキア器官に引き寄せられた微量の粒子が、わずかに空間を赤く着色した。
 この赤い粒子はプリオティーモ、通称プリオと呼ばれる大気成分の一種だ。
「風環形成……そして維持」
 レミオの顔の高さに集合した赤い粒子が、小さな輪『風環』を形作った。
 古の人々は、プリオが風の根源だと考えていた。ヴェルキア器官に集められたプリオは、環状になることが多いため『風源の環』すなわち風環という呼び名がついた。
 プリオは高濃度になると可燃性を持つ。この特性を利用したのがプリオガスだ。
「よし……上手くいった」
 レミオは眼前の小さな風環に右手を近づける。すると弱いながらも内側へ引き込もうとする力を――『風動力(ヴェルツ)』を感じる。
「風環をこのまま維持しながら……」
 レミオは風環へ近づけていた右手を、前へかざしたまま忍び足で下がり始める。風環はヴェルキア器官から遠くなるほど、維持が難しくなり、風動力も弱くなる。
 大抵、腕二本分先に強力な風環が作成できれば上出来ではあるが……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 なんとなく、改稿の感じが伝わるでしょうか?
 改稿は、このように進んでいきます。

 ちなみに、ヴェルキア器官を説明するため、追加されたキャラクターもいます。それは、この世界で最高速度を誇るトラフィックの要・ヴェルキア器官車(要は人力車)の、ロイスタ駅駅長。
 口ひげを蓄え、強力な『浮遊』の風環を使いこなす彼の投入でヴェルキア器官の凄さがよりわかりやすく伝えられるようになったと思います。そして、主人公レミオと患者・クレアの出逢いの矛盾も同時に解消し、より印象的なシーンへと生まれ変わりました。
 そしてこの駅長、途中参加にも関わらず、今ではこの物語に欠かせない人物となりました(そして、人気キャラでもありますw)。


 さて、この作品の大きな課題は、3つ。
 ●1●「独特で過剰な設定」を、初見の読者にもすんなりと理解できるよう、わかりやすく情報提示」すること
 ●2●作品の半分近くを占める戦闘シーンをタイトにし、全体の「バランス」を取りつつ、メリハリをつける
 ●3●物語のテーマ「食療学」=「料理で病気を治療する学問」を、きちんと物語にリンクさせること

 次にクリアすべき「2」と「3」については、第5回で。

 《第5回へつづく》 


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